心理発達コラム
中学生の登校渋り(行き渋り)に親はどう対応すれば?原因と家庭でできるサポート法
朝、「今日は休みたい」とつぶやくわが子に、なんと声をかけたらいいのか…。
中学生の登校渋り(行き渋り)は、小学生時代とは異なる“思春期特有の心の揺れ”が背景にあることも少なくありません。
本記事では、保護者としてできる具体的な関わり方と、実際に変化を見せた事例を紹介します。
お子さんと一緒に歩むためのヒントとして、ぜひご覧ください。
1.中学生の登校渋り(行き渋り)とは?定義とよくあるケース
「体調は問題ないのに登校をためらう」状態、それが登校渋り(行き渋り)です。
日常生活を送る上では大きな支障がないように見えても、学校に行くとなると急に気持ちが沈んだり、体調不良を訴えることがあります。
たとえば、「朝になるとお腹が痛い」「学校に行く時間になると涙が出る」といったように、心の不調が体に現れることも珍しくありません。
また、「特定の教科や授業だけは出られるけれど、それ以外はつらい」「部活動には行けるけれど、授業には出られない」といったように、時間帯や活動によって登校できる・できないに差があるケースも多く見られます。
登校渋り(行き渋り)は、以下のように段階的に進行することがあります。
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少し登校しにくくなる
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遅刻が増える
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早退や欠席が増える
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行事だけ参加するようになる
子どもの気持ちや体調は日によって変動しやすく、エレベーターのように上がったり下がったりしながら変化します。
一見、「さぼっているのでは?」「逃げているだけなのでは?」と見えることもあるかもしれませんが、その背景には、子ども自身でも説明しきれない不安や戸惑いが隠れていることが多いのです。
無理に登校を促すのではなく、その時その時の状態を受け止めながら、段階的な支援を考えることが大切です。
2.起こりやすい時期と背景
2-1. 中1ギャップ(進学直後)
小学校からの「学力の難化」「教科担任制の導入」などによる心理的負担
・部活や交友関係など新しいルールに適応する必要性
中学校では、小学校にはなかった定期テストが実施され、点数によって評価されることがプレッシャーになります。
また、教科ごとに先生が違うため、「先生によって説明の仕方や態度が全然ちがう」「急に厳しくなった」と感じることも。
さらに、「今まで気にしていなかった学習の遅れや苦手」が明らかになり、“自分だけできない”という焦りや劣等感につながることも少なくありません。
こうした小さな変化が積み重なり、登校渋り(行き渋り)に発展するケースがあります。
2-2. 友人関係のトラブル
・SNSやグループの序列など、見えにくいストレスが蓄積
中学生になると、「仲が良いと思っていた友達から急に距離を置かれた」「グループ内で仲間外れにされた」といった裏切られたような感覚が、深い傷になることがあります。
いじめとまでは言えなくても、「信じていた相手に否定された」という経験は強い不安や不信感を残します。
子どもが言葉にできない場合もあるため、「最近、誰と話してる?」「学校で落ち着ける時間ある?」など、日常の会話から心の変化に気づくことが大切です。
2-3. 長期休暇明けの心理的負担とリスク
長期休暇明けは、学校生活への再適応を迫られる時期であり、心の負担が特に大きくなります。
中でも特に注意すべきなのが「夏休み明け(特に9月1日前後)」です。
実際に、厚生労働省の統計では、過去約40年間のデータから、夏休み明けの9月1日に児童・生徒の自殺が最も多く発生していることが明らかになっています(厚生労働省「児童生徒の自殺対策について」PDF)。
また、令和5年(2023年)には児童生徒の自殺が年間513人に達し、文部科学省は全国の教育機関に対して長期休業明けの見守り強化を通知しています(文部科学省通知「児童生徒の自殺予防に向けた取組の推進について」)。
👂親が意識すべき「声かけ」のヒント
- 「また学校始まるの、ちょっとしんどいよね」
- 「全部やらなくても、今日はこれだけできればOK」
- 「どうしたら楽になるか、一緒に考えてみよう」
子どもにとって、「また頑張らなきゃ」という切り替えのストレスが積み重なりやすいのがこのタイミングです。
登校渋り(行き渋り)が表面化する前に、家庭での気づきと声かけが大きな予防策となります。
3.登校渋り(行き渋り)の主な原因と家庭でできる対応策
3-1. 進学直後の不安
・スケジュールを一緒に確認し、科目ごとの見通しを持たせる
・部活や行事は「参加できそうなところから」でOK
中学生になったばかりの子どもたちは、「もう中学生なんだからしっかりして」と言われがちです。
けれども実際には、心も体もまだ発展途上であり、不安や戸惑いを一人で抱えきれないことが多いのです。
特に進学直後は、学校の仕組みや人間関係が大きく変わる中で、「ちゃんとしなきゃ」「でもうまくできない」という葛藤を抱えやすい時期。
そんなときこそ、「まだ中学生なんだよね」という視点で、寄り添いながらサポートする姿勢が何よりも安心感につながります。
3-2. 友人関係のつまずき
・家でリラックスして話せる時間・場を確保する
・担任やカウンセラーと情報共有し、配慮を依頼
思春期の人間関係は、お互いにまだ未成熟な状態で築いていくものです。
自分自身も戸惑うように、相手もまた不器用な表現や関わり方しかできないことがあります。
「なんでそんなこと言うの?」「急に避けられた気がする」と感じても、それは人間関係の勉強の一歩目かもしれません。
大切なのは、「こういうこと、誰にでもあるよ」「私も中学生の頃、友達とのことで悩んだよ」といった、保護者自身の体験談を共有することです。
誰でもつまずくものだと伝えるだけで、子どもは安心し、自分を責めすぎずにいられるようになります。
そうした経験こそが、将来の信頼関係や他者理解の土台になるのです。
3-3. 学習ストレス・自己肯定感の低下
・結果よりも「取り組み姿勢」を褒める
・小さな成功体験(プリントや暗記)で自信を育てる
中学生になると、テストや成績など「数値で評価される場面」が増えるため、結果にばかり意識が向いてしまいがちです。
しかし、無理に「次は100点とろう!」と大きな目標を掲げるよりも、「今日は一緒に10分だけ漢字をやってみよう」といった小さな一歩を一緒に進めることの方が効果的です。
また、学習以外の面で自信をつけられる場面、たとえば部活や家庭での役割など、がんばれる場所を見つけることも大切です。
「あなたのこういうところ、いいね」「この前の声のかけ方、やさしかったね」といった、勉強以外の力にも目を向けて伝えることが、子どもの自己肯定感を支える大きな力になります。
3-4. 生活リズムの乱れ・体の不調
・規則正しい生活習慣の見直し
・起立性調節障害などの身体要因も医療機関と連携して確認
登校渋り(行き渋り)の背景には、はっきりした理由がない「なんとなく不調」「無気力で動けない」といった状態が続くことがあります。
夜遅くまでスマホやゲームをしてしまい、朝起きられないというケースも多く見られます。
このようなとき、「自分で我慢しなさい」と言ってもなかなか難しいのが現実です。
ネットやゲームには依存性もあるため、Wi-Fiや端末の使用時間を親がコントロールする環境づくりが大切になります。
加えて、朝ごはんをいっしょに食べる、お風呂に入るといった生活の基本を整えることが、自律神経の調整にもつながります。
小さなことから整えていくことで、少しずつ心と体のリズムを取り戻す手助けになります。
4.改善の具体事例
ケース1:Cくん(友人と勉強の不安)
中学入学後、勉強の難しさと人間関係の不安が重なって、登校が不安定になっていたCくん。
家では「テスト範囲がある勉強ってどうするの?」というところから、一緒にスケジュールを立てて、小テストを家庭で練習し、達成感を得るようにしました。
学校では、「わからないときは先生に質問する」習慣づけをし、必要に応じて塾を利用して補強しました。
また、部活動に参加したことで、友達ができやすくなり、学校へのやりがいも増えていきました。
担任の先生との連携も行い、安心して過ごせるクラスの雰囲気づくりもサポートしてもらいました。
その結果、徐々に遅刻や欠席が減り、安定して登校できるようになっていきました。
ケース2:Dさん(SNSトラブル)
SNSでのやり取りがきっかけで不安を感じるようになり、登校をためらうようになったDさん。
家庭ではまず、「LINEなどのSNSアプリは夜9時以降は返信しない・見ない」というルールを決め、それを「うちはそういう決まりだから」と友達にも伝えるようにしました。
Dさんは、「SNSを使わないと友達から外されてしまうのではないか」と不安を感じていました。
その気持ちをしっかり受け止めたうえで、「本当の友達は、時間のルールを理解してくれるよ」「学校でのやり取りや直接会った時間の方が大切だよ」と、SNS以外のつながり方があることを丁寧に伝えていきました。
また、SNSで気になることがあったときには、親や先生に相談してよいことをあらかじめ話し合い、安心できる相談先を持つことを支えにしました。
さらに、趣味や創作活動の時間を意識的に設けることで、SNS以外の充実した時間も少しずつ増やしていきました。
スマホを単に制限するのではなく、「ほかにも楽しいことがある」と感じられることが、Dさんの気持ちを少しずつ安定させていくきっかけになりました。
ケース3:Eくん(無気力)
朝になると「なんとなくしんどい」「学校に行く理由がわからない」と口にするようになったEくん。
明確なきっかけが見つからず、家庭でも対応に悩む日々が続いていました。
Eくんは夜遅くまでスマホや動画を見ていて、生活リズムが乱れがちに。
家庭ではまず、Wi-Fiの利用時間を夜9時で制限し、朝ごはんを一緒に食べることや、お風呂にしっかり入る習慣づけから始めました。
「まずは登校より、体と生活リズムを整えることを優先しよう」と伝えることで、本人の負担感を軽くするよう工夫しました。
さらに、「今日は一緒に買い物に行ってみよう」「午後からなら学校に行けそうか聞いてみる?」といった、小さな外出や部分登校から徐々に慣らしていくステップをとりました。
ゲームやネットに依存しがちな状態に対しては、「自分で我慢しなさい」ではなく、環境と習慣を整えることで無理なく手放せる仕組みを意識しました。
その結果、午後からの登校ができるようになり、徐々に気持ちが前向きに変化していきました。
5.深刻化する前にできる早期対応
5-1. 気づきのサインと対応
中学生の登校渋り(行き渋り)は、小学生のようなわかりやすい行動よりも、「なんとなく元気がない」「朝起きるのがつらそう」といった、さりげないサインで現れることが多いです。
【見逃したくないサインの例】
・夜更かしやスマホ使用時間の増加
・朝、頭痛や腹痛を訴える
・無言の時間が増える、表情が乏しくなる
・「今日は〇時間目から行く」「給食だけ行く」といった部分登校の提案
こうしたサインが見られたとき、無理に登校を迫るのではなく、「最近どう?」と優しく声をかけたり、朝ごはんを一緒に食べるなど、日常の中での安心感づくりが大切です。
5-2. 学校・専門機関との連携
家庭内での対応に限界を感じたときは、学校や第三者との協力が必要です。
・担任とこまめに連絡を取り、本人の様子を共有する
・スクールカウンセラーに相談し、本人の気持ちを中立的に聞いてもらう
・教育相談センターや養護教諭など、医療的な観点も含めた連携を視野に入れる
また、午後からの登校や保健室登校など、柔軟な通学スタイルを検討することも回復のきっかけになります。
6.親ができる関わり方と安心感の育み
6-1. 「私のせいかも…」と思ったときに読んでほしいこと
まじめな保護者ほど、子どもの登校渋り(行き渋り)を「自分の育て方が悪かったのでは」と自責しがちです。しかし、登校渋りは成長の過程における心のサインでもあります。
親自身が気持ちを整理し、安心できる時間を持つことが大切です。
・同じ悩みを持つ保護者の体験談を読む
・担任や支援者と気軽に話せる関係を作っておく
・家族やカウンセラーに相談し、自分の気持ちもケアする
「この子にはこの子のペースがある」と思えるだけで、気持ちはずっと楽になります。
6-2. 日常の安心感を育てる
日々の関わりの中で、子どもに「大丈夫」「あなたは大切な存在だよ」と伝えることが、自己肯定感の基盤になります。
・毎日の挨拶や「おやすみ」の声かけを丁寧に
・食事やお風呂など、一緒に過ごす時間を意識的に作る
・「今日もがんばったね」と小さな成功体験を一緒に喜ぶ
・スキンシップや笑顔のやりとりも効果的
登校できるかどうかではなく、日々の中で「親子のつながり」を感じることが回復の力になります。
7.まとめ|中学生の登校渋りに寄り添うために
中学生の登校渋り(行き渋り)は、思春期特有の心のゆらぎや環境の変化が重なり合って起こることが多くあります。
「行ける・行けない」だけで判断するのではなく、その背景にある気持ちに寄り添い、支え合う関係を大切にしましょう。
焦らず、比べず、お子さんのペースに合わせながら、家庭・学校・専門機関と連携して、一歩ずつ前に進んでいくことが何よりのサポートです。
筆者:子どもの心と発達の相談ルーム「ここケット」代表:大畑豊(臨床心理士・公認心理師)
スクールカウンセラー・保育園・大学講師などもしています。
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