心理発達コラム
高校生の登校渋り(行き渋り)に親はどう対応すれば?原因と家庭でできるサポート法
「高校生にもなって、まさかうちの子が…」「このままじゃ、どうなっちゃうんだろう…」
お子さんが高校生になってからの不登校や登校渋りに直面し、あなたは今、深い不安と焦りを感じているかもしれません。これまで順調に登校していたお子さんが、突然学校に行きづらくなったり、無気力になったりする姿を見るのは、親として本当につらいものです。
特に高校は義務教育と異なり、テストの点や出席日数が進級や卒業に直結するため、「学校を休むこと=退学につながるのでは」と、保護者も本人も強い不安を感じやすくなります。
また、文部科学省のデータによると、夏休み明けの9月1日前後は児童生徒の自殺が最も多い時期とされており、特に高校生の割合が高い傾向があります。こうした背景からも、登校に関する不安やしんどさを軽視せず、早めの対応が重要です。
しかし、高校生の不登校・登校渋りは決して珍しいことではありません。そして、焦って無理に登校を促すよりも、まずは背景にある悩みや不安に目を向けてあげることが、回復への第一歩となります。
本記事では、高校生の登校渋り(行き渋り)の主な原因や背景、家庭でできる対応、実際の改善事例などをわかりやすく解説します。
卒業や進路への不安にも触れつつ、お子さんと一緒に未来への道を歩むためのヒントをお届けします。
1.高校生の登校渋り(行き渋り)とは?定義とよくあるケース
1-1. よくある初期サイン
朝、頭痛や腹痛を訴えて起きられない
前夜になって「明日は休みたい」と言い出す
起きているのに制服に着替えず、準備ができない
遅刻していく、保健室で過ごす、途中で帰宅する
このような状態が続いているとき、「甘えている」「気持ちの問題」と捉えられがちですが、背景にはさまざまな心理的・社会的な要因が絡んでいる場合がほとんどです。
1-2. よくあるケース①:新学年・新入学後の不適応
高校進学を機に「友だちを一から作らなければならない」というプレッシャーを感じる生徒は少なくありません。
思春期特有の自己否定感や人間関係の不安が強く、うまくなじめない場合、「トイレで一人でお弁当を食べる」といった行動に出ることもあります。
また、「自分で選んだ学校に通っている」という自覚が強いことで、うまくいかない現実とのギャップに苦しむ子もいます。
一方で、「親や先生が決めたからこの学校に来た」というケースでは、納得感が乏しく、モチベーションが低下してしまうこともあります。
1-3. よくあるケース②:入学後の学習ギャップ
中学校と比べて、授業内容やスピードが急に難しくなるため、ついていけないと感じる生徒も多くいます。
「勉強がわからない」「授業についていけない」という焦りや劣等感から、次第に登校が苦痛になっていくことがあります。
また、学習塾に通っていた子が高校進学を機に辞めてしまうケースもあり、学習面のサポートが途切れることで、さらに不安を感じるようになることも。
1-4. よくあるケース③:人間関係やSNSのトラブル
高校生になると、LINEやSNSを通じたやりとりの中で「仲間外れ」や「無視」「誤解」などが起こりやすくなります。
こうした見えにくい人間関係のトラブルが蓄積され、「学校に行きたくない」という気持ちに繋がっていきます。
些細なことに見えても、本人にとっては大きなストレス源になっている場合があります。
2.高校生に特有の行き渋りの背景
2-1. 思春期の自己肯定感の低下
思春期は、自分自身の存在や将来について考え始める時期です。周囲との比較や将来への漠然とした不安から、「自分はダメだ」「どうせ頑張っても無理」といったネガティブな思考に陥りやすくなります。自己肯定感が下がると、「学校に行く意味がわからない」「自分なんかがいても迷惑」といった思いを抱えやすくなります。
2-2. 友人関係の不安と孤立感
中学までの友人関係がリセットされる高校では、「一から友だちを作らないといけない」ことに強い不安を感じる生徒も少なくありません。クラスの中で話せる相手がいない、居場所が見つからないと感じたとき、トイレや空き教室で昼食をとるなどの孤立した行動に出ることもあります。SNSのやりとりがストレスの原因になることも多く、既読無視やグループからの除外など、小さなすれ違いが大きな悩みにつながることがあります。
2-3. 学習面でのプレッシャー
高校の授業は中学よりも格段に難しくなり、科目も増えるため、学習の負担が大きくなります。中学までは順調だった生徒でも、高校の学習ペースについていけずに自信を失ってしまうことがあります。さらに、高校進学を機に学習塾をやめたことで、家庭外に学習支援を得られず孤立感が強まるケースもあります。
2-4. 不本意入学・環境のギャップ
第一志望校に合格できなかった、家族や先生の勧めで希望とは違う学校に進学したという「不本意入学」の場合、「この学校は自分に合っていない」「本当は他の高校に行きたかった」といった思いが残り、登校意欲の低下につながります。また、想像していた学校生活と現実とのギャップに戸惑い、「失敗した」「選んだのは間違いだった」と自分を責めてしまうこともあります。
3.主な原因と家庭でできる対応策
3-1. 否定せず、まず気持ちを受け止める
登校を渋るお子さんに「なんで行かないの?」「甘えじゃないの?」と否定的な言葉をかけると、さらに心を閉ざしてしまうことがあります。
「無理しなくていいよ」といった声かけで、お子さんの感情に共感しながら受け止める姿勢が大切です。
3-2. 規則正しい生活リズムを整える
生活が昼夜逆転してしまうと、心身の不調も悪化しやすくなります。
朝は決まった時間に起こす
日中に日光を浴びるように促す
夜はスマホやゲームの使用時間を決める
など、家庭でできる範囲で生活リズムを整えることが、登校再開への土台になります。
3-3. 家庭で「安心できる居場所」をつくる
学校でつらいことがあっても、家ではリラックスして過ごせる環境を整えることが、回復への第一歩になります。
食事を一緒にとる
雑談をする時間を意識的に作る
成績や登校に関係ない話題で笑顔を交わす
「学校に行ってないから家でも責められる」と感じさせないような関わり方が重要です。
3-4. 外部の学習支援を検討する
高校入学を機に、学習塾や家庭教師をやめてしまう生徒も少なくありません。しかし、家庭以外での学習環境があることは、自己肯定感やリズムの維持につながることがあります。
個別指導塾や通信教材など、無理なく取り組める支援方法を探す
週に数回でも「学ぶ場」があることで、自信の回復や登校意欲のきっかけになる
3-5. 学校内に「行く理由」をつくる
完全登校が難しい場合でも、「行ってもいい」と思える理由があると、登校へのハードルが下がります。
保健室登校、別室登校など、負担の少ない形で学校と関わる
部活動や生徒会なとに参加して、居場所を確保する
クラブ活動などは、学業以外で自分の存在を肯定できる大切な場になります。
4.改善の具体事例
4-1. 家庭での声かけと関係性の見直し
4-2. 学習面のサポートと居場所づくり
高校に入って塾をやめたというケースも少なくありません。学習面でのつまずきが登校しぶりにつながっている場合、外部の学習支援を活用することで自信を取り戻すきっかけになります。
また、家庭以外の「安心できる居場所」があることで、子どもは気持ちを切り替えたり、気晴らしをすることができます。地域の学習支援団体、フリースクール、ボランティア活動など、お子さんがリラックスできる環境を見つけてみましょう。
4-3. 学校内での居場所の確保
学校に通うこと自体が負担になっている場合でも、「完全に学校を離れる」のではなく、「何かしらの接点を残す」ことが大切です。
たとえば、クラブ活動や委員会などを通じて、登校のハードルを下げることができます。登校の目的が「授業を受ける」だけでなく、「クラブに行く」や「友達に会う」に変わることで、心の負担が軽くなる場合があります。
また、保健室や別室で過ごす、午後からの部分登校など、学校側と相談しながらお子さんに合った通学スタイルを模索していくことも一つの手段です。
ただし、出席にならないことが多いので、学校に確認しながらいつまでそうしても大丈夫なのか確認していきましょう。
5.進路や将来への不安との向き合い方
5-1. 今の状態を肯定し、安心感を育む
まずは「今のあなたで大丈夫」というメッセージを伝えることが大切です。安心感があってこそ、次のステップに向かう意欲が芽生えます。
5-2. 単位や進路の情報を一緒に整理する
登校が難しい期間が続くと、「もう卒業できないのでは」と不安を感じることがあります。
まずは現在の出席状況や単位の取得状況を学校と確認し、今後どういった対応が必要かを整理しましょう。場合によっては、通信制高校や定時制への転学、単位制高校への転入といった選択肢も視野に入れることができます。
今、現在取得している単位なども確認しながら、いつ切り替えるのかは、よく確認する必要があります。状況によっては、慌てて転学・転校する必要がない場合もあります。
5-3. 専門家によるカウンセリングを受ける
進路に関する不安や葛藤は、家庭内だけで抱えるのではなく、第三者の力を借りることも大切です。
思春期の対応が可能な医療機関や、臨床心理士・公認心理師が在籍する民間の相談機関で、専門的なカウンセリングを受けることができます。
※医療機関によっては成人のみ対応している場合もあり、未成年者は保護者の付き添いが必要なこともあります。事前に確認しましょう。
臨床心理士・公認心理師:お子さんや保護者の不安を丁寧に受け止め、問題整理をサポート。民間のカウンセリングルームでは、学校との連携や家庭での関わり方についても相談可能です。
6.親が一人で抱え込まないために
6-1. 保護者自身のメンタルヘルスと安心感の確保
お子さんの登校渋りに直面すると、「親として自分が何とかしなければ」と強く感じるかもしれません。しかし、保護者が一人で抱え込んでしまうと、心身ともに疲れ果ててしまい、かえってお子さんへのサポートが難しくなってしまいます。
身近な人に気持ちを話すことで、自分自身の気持ちが整理され、精神的な余裕が生まれます。「親なんだから頑張らなきゃ」と一人で思い詰めず、信頼できる人に話してみましょう。
6-2. 保護者向けの相談機関を活用する
各自治体やNPOなどでは、保護者向けに不登校に関する相談を受け付けている場合があります。「こんなこと相談していいのかな」と思わず、まずは一歩を踏み出してみましょう。
6-3. 自分自身の心のケアも忘れずに
保護者が安心していると、お子さんも安心できます。ご自身のストレスや不安にも目を向け、必要があればカウンセリングなど専門的なサポートを受けることも検討してみてください。
7.ここからできること:回復へのステップと見通し
登校渋りの回復は、一直線に良くなるものではなく、波のあるプロセスです。「今日は行けた」「また行けなくなった」と揺れながらも、少しずつ自分のペースで前に進んでいくことが大切です。
高校生にとっては、自分の進路を自分で決めていく段階にありますが、それは決して「放っておいてよい」という意味ではありません。「話したくなったら、いつでも聞くよ」という姿勢で関わることが大切です。
今の子どもたちは、LINEなどの文字で気持ちを伝えてくることも多いため、そうした手段も含めてコミュニケーションのチャンネルを確保しておきましょう。もちろん、直接顔を見て話すことも大切です。
無理に毎日登校させるのではなく、部分登校や短時間登校から始めてみる
学校以外の居場所(塾、クラブ、フリースクールなど)を見つける
好きなこと、得意なことから自己肯定感を回復していく
そして、少しでも前向きな変化があったら、「頑張ったね」「できたね」と声をかけてあげてください。小さな成功体験の積み重ねが、大きな自信につながります。
次の章では、「まとめ」として保護者が心にとどめておきたいポイントを整理します。
まとめ:高校生の登校渋りに向き合うために
高校生にとって、登校渋りは「初めての本格的な挫折体験」になることもあります。自分の思い描いていた通りにいかない現実と向き合う中で、自己否定や将来への不安を強く感じることもあるでしょう。
そんなとき、保護者としてできることは、**「今のこの子の状態を受け入れて、必要なときに支えられる存在でいること」**です。焦って「早く元に戻ってほしい」と思う気持ちは自然なことですが、それを急かすことで、かえって回復の芽を摘んでしまうこともあります。
大切なのは、お子さんのペースに合わせて、少しずつ一歩ずつ歩んでいくこと。
小さな変化に気づいたときには、「最近どう?」「今日はどうだった?」など、お子さんの気持ちに寄り添う問いかけを意識する
できたことを一緒に喜ぶ
たとえ後退したように見えても、「また次があるよ」と前向きに捉える
そして、保護者自身も「一人で抱え込まない」ことが重要です。相談できる相手や専門機関とつながることで、心に余裕が生まれ、お子さんにも穏やかなまなざしを向けることができます。
ここケットでは、臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングを通して、お子さんや保護者の気持ちに寄り添いながら、具体的な対応や進路の選択肢についてサポートしています。
どんな小さな不安でもかまいません。まずは「話してみること」から、一緒に始めてみませんか?
筆者:子どもの心と発達の相談ルーム「ここケット」代表:大畑豊(臨床心理士・公認心理師)
スクールカウンセラー・保育園・大学講師などもしています。
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