心理発達コラム
小学校高学年の登校渋り(行き渋り)とは?思春期の不安と家庭でできる対応策を徹底解説
小学校高学年(4〜6年生)は、思春期の入り口に差しかかり、心と体の変化が大きくなる時期です。その影響から「登校渋り(行き渋り)」が見られることも少なくありません。本記事では、高学年ならではの登校渋りの特徴や原因を整理し、ご家庭でできる具体的な対応策や改善事例を紹介します。
1. 登校渋り(行き渋り)の定義とよくあるケース
1-1. 登校渋り(行き渋り)とは?
1-2. よくあるケース
登校渋り(行き渋り)は、以下のような形で表れることがあります。
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月曜日や連休明けに登校を嫌がる
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朝になるとお腹が痛くなるが、日中は元気に過ごせる
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学校の門や教室の前で立ち止まり、涙を見せる
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「先生が怖い」「〇〇さんと会いたくない」と訴える
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学校の話題になると表情が曇る、無口になる
これらは、子どもなりの「今、しんどいよ」というサインです。まずは気持ちを受け止め、安心できる関わり方を意識することが大切です。
2. 登校渋り(行き渋り)が増える時期と背景
2-1. 学年の変わり目・クラス替え直後
新しい担任の先生やクラスメートとの関係に不安を感じやすくなります。「仲のいい友達と離れた」「先生の雰囲気がこわい」といったことがきっかけになることもあります。
2-2. 行事やテストの前後
発表会や運動会、テストなど、人前での活動や結果が求められる場面は、プレッシャーを感じやすいものです。「失敗したらどうしよう」「怒られるかも」と不安が先立つと、登校そのものがストレスになります。
2-3. 思春期による心身の揺らぎ
体つきの変化やホルモンバランスの影響で、気持ちが不安定になりやすい時期です。本人にも理由が分からないまま「イライラする」「学校に行きたくない」と感じることもあります。
2-4. 長期休み明けの心理的な負担
特に注意が必要なのが夏休み明けの9月1日周辺です。厚生労働省の統計によると、過去約40年のデータにおいて、児童・生徒の自殺が最も多くなるのがこの時期であると報告されています(厚生労働省「児童生徒の自殺対策について」)。
さらに、文部科学省も長期休業明けには特に配慮を要する旨を通知しています(文部科学省「児童生徒の自殺予防に向けた取組の推進について」)。
「学校に行かなきゃ」というプレッシャーと、「うまくやれるかな?」という不安が重なることで、心が追い詰められてしまうこともあります。
3. 主な原因と家庭での対応策
3-1. 対人関係のトラブル
原因:友達とのトラブルやグループ内での居心地の悪さ。
対応策:
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子どもの気持ちに寄り添い、じっくり話を聞く
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習い事や地域の活動など、学校以外の人間関係を広げる機会をつくる
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必要に応じて担任の先生と情報共有し、環境調整を相談する
3-2. いじめや不快な言動
原因:言葉や態度、身体的な被害などにより学校が「安心できない場所」になる。
対応策:
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子どもの訴えを真剣に受け止め、「味方である」ことを伝える
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学校の担任やスクールカウンセラーへ早期に相談する
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教育委員会や外部機関に連携を依頼し、第三者の支援も活用する
3-3. 学習への不安・苦手意識
原因:授業が分からない、成績が伸びず自信を失っている。
対応策:
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苦手分野を家庭で一緒に復習し、小さな成功体験を積ませる
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学校と連携して支援策を確認する(少人数対応・別室対応など)
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個別指導塾やオンライン教材などを取り入れる
3-4. 理由のはっきりしない不安
原因:「なんとなく不安」「気持ちが落ち着かない」など、自分でもうまく言葉にできない状態。
対応策:
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日々の生活リズムを整え、安心感のあるルーティンをつくる
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絵や日記、感情カードなどを使って気持ちを可視化する
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「学校に行かなくても大丈夫な日があってもいい」と伝える柔軟さも必要
3-5. クラスの雰囲気や居場所のなさ
原因:クラス全体の空気になじめない、気軽に話せる子がいない。
対応策:
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担任に相談し、座席やグループ活動などの配慮を求める
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保護者同士で情報を交換し、学校の様子を把握する
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家庭内に「安心して過ごせる場所」を意識的につくる
3-6. 担任の先生との相性が合わない
原因:先生の指導が厳しく感じられる、話しかけづらい雰囲気がある。
対応策:
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連絡帳などを使って先生との橋渡し役になる
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学年主任やスクールカウンセラーに相談して関係改善を図る
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状況が変わらない場合は、担任変更を学校に相談することも検討する
3-7. 低学年から続く登校渋り(行き渋り)
原因:小さい頃から続いている不安や成功体験の少なさ。
対応策:
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過去にうまくいった対応法を思い出して再実践する
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「今日はここまでできた!」という記録を可視化し、達成感を共有する
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必要に応じて発達検査や心理相談などの専門的な視点も取り入れる
4. 登校渋り(行き渋り)の改善事例
ケース1:友人関係の不安で登校できなくなったAくん(5年生)
状況:仲の良かった友達とクラスが別れ、新しいクラスでの関係づくりに不安を感じ、週に2〜3回しか登校できない状態が続いていました。
対応:
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家では絵日記やおしゃべりを通して気持ちを表現してもらう
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学校と連携し、安心できる子の近くの席にしてもらう
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放課後に地域のスポーツクラブに参加し、新たな居場所をつくった
結果:2週間後には毎日登校できるようになり、笑顔も増えていきました。
ケース2:学力不安と担任への苦手意識が重なったBさん(6年生)
状況:算数のテストで連続して悪い点を取り、自信を失ったBさん。担任の先生が厳しく感じられ、「叱られたらどうしよう」と登校を渋るようになりました。
対応:
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家庭で毎日10分間だけ、苦手な単元を一緒に復習
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担任に連絡帳で「わからない時は助けてほしい」と伝える工夫をした
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学校で週に1回、別の先生が安心して話せる時間をつくってくれた
結果:3ヶ月後には自信を取り戻し、算数の授業でも手を挙げられるようになりました。
5. 深刻化を防ぐ早期対応のヒント
5-1. 登校渋り(行き渋り)のサインと対応ポイント
こんなサインが出ていませんか?
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朝起きるのが極端に遅くなった、あるいは眠れなくなった
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「お腹が痛い」「頭が痛い」と言うが、病院では異常なし
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学校の話題を避けたがる
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帰宅後、イライラや無気力が目立つ
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ゲームや動画に過度に没頭するようになった
対応のポイント:
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否定せず「気づいているよ」「心配しているよ」と声をかける
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小さなサインの段階で担任の先生やスクールカウンセラーに相談する
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話しづらそうな場合は、絵やカードなどを使って気持ちを表現できる場をつくる
5-2. 学校や専門機関との連携方法
家庭だけで対応しようとせず、外部の力を借りることも大切です。
具体的な連携方法:
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担任との連絡帳を活用し、子どもの様子をこまめに共有する
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スクールカウンセラーや養護教諭に早めに相談し、学校側での見守りを依頼する
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子ども家庭支援センターや教育センターなど、地域の相談窓口を利用する
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必要に応じてフリースクールや登校支援のNPOなども視野に入れる
6. 親ができる工夫と関わり方のポイント
6-1. 無理に登校させない選択肢も
「どうしても無理そうな日は休んでいい」と伝えることで、子どもにとって心の逃げ道になります。
家庭でできる工夫:
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在宅学習(市販ドリルやオンライン教材など)を活用し、学習のペースを保つ
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「学校の門まで行く」「先生にあいさつだけする」など、段階的な目標を設ける
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フリースクールや登校支援団体など、別の居場所も検討する
6-2. 自己肯定感を高める関わり方
登校渋り(行き渋り)の背景には、「自分はダメなんじゃないか」という自己否定の気持ちが隠れていることもあります。
声かけ・関わりのポイント:
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「できたね」「頑張ったね」など、具体的な行動をほめる
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好きなこと・得意なことを一緒に楽しむ時間を持つ
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小さな成功体験を可視化する(シール帳や日記など)
6-3. 保護者自身も無理をしない
まじめな保護者ほど、自分を責めてしまう傾向があります。しかし、保護者の安定が子どもの安心につながります。
心のケアのために:
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一人で抱え込まず、家族・友人・相談機関に気持ちを話す
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地域の子育て支援センターやカウンセラーを活用する
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「これは成長の一過程」と考え、焦らず見守る姿勢を持つ
まとめ: 焦らず、少しずつできることから
小学校高学年の登校渋り(行き渋り)は、思春期の心の揺らぎに加え、対人関係や学習面だけでなく、家庭環境の変化(引っ越しや保護者の転職など)、体調不良、兄弟姉妹との関係など、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じます。
子どもが「学校に行きたくない」と感じる背景には、日々の生活の中に小さなストレスや不安が隠れていることがあります。だからこそ、焦らずに子どもの様子を見守り、次のような対応を意識してみましょう。
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子どもの生活環境を見直し、ストレスの原因がないか確認する
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学校以外にも安心できる「居場所」を見つける
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必要に応じて、カウンセラーや医師などの専門家に相談する
保護者として、「学校に行かせなければ」と思い詰めてしまうこともあるかもしれません。しかし、無理に登校を促すよりも、少しずつ子どもに合った環境を整えていくことが大切です。
一人で抱え込まず、学校や支援機関と連携しながら、ゆっくりと子どものペースに寄り添っていきましょう。