心理発達コラム
「なんでそんな態度…?」に悩むあなたへ。小学校中学年〜高学年の親子関係ヒント集
この時期の子どもとの関係に戸惑っていませんか?
「反抗する」「無口になる」「感情が読めない」——そんな変化は、実は心の成長のサインかもしれません。
本記事では、不登校や発達特性のある子どもを持つ保護者の方に向けて、親子関係のヒントを5つの視点からお届けします。
1.「あれ、最近ちょっと冷たい?」—距離をとるようになる時期の背景
2.「それって反抗?」—言い返す、指示に従わないときの捉え方
3.「何考えてるか分からない」—表情や感情表現の変化への対応
4.「心ここにあらず?」—話しかけても反応が薄いときの関わり方
5.“思春期予備軍”としての親子関係づくり
まとめ
1. 「あれ、最近ちょっと冷たい?」—距離をとるようになる時期の背景
小学校中学年から高学年にかけて、「前より話してくれなくなった」「スキンシップを嫌がるようになった」と感じる保護者の声がよく聞かれます。これまで当たり前だった“ベタベタ”した関わりが急に減り、親としては「嫌われたのかな?」と不安になることもあるでしょう。
ですが、こうした“距離をとるような態度”は、この時期の子どもたちにとって自然な発達の一部です。
1-1. 自立への準備としての「親離れ」
この時期の子どもは、学校生活にも慣れ、友達との関係や自分なりの世界が広がってきます。エリクソンの発達理論で言えば「勤勉性 vs. 劣等感」の段階から、「自我同一性 vs. 役割の混乱(思春期)」へと向かう過渡期にあり、徐々に「自分とは何者か」「親とは違う自分」という意識が芽生えてくるのです。
これは「親が嫌いになった」のではなく、「親以外の関係や価値観に目が向くようになった」という成長の表れでもあります。
1-2. 発達特性のある子の“ズレ”に注意
一方で、発達特性のある子どもでは、この「親離れ」の様子が分かりにくい、あるいは過剰になることがあります。
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ASD傾向のある子は、もともと感情表現が控えめだったり、親子の距離感に独自のこだわりを持っていたりすることがあり、「拒否された」と親が誤解しやすくなります。
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ADHD傾向のある子では、親からの関わりを煩わしく感じて強く反発する場面が増えることもあります。
こうした行動が見られても、「親として失敗した」わけではありません。発達段階と特性の交差点で、一時的に関係が揺らぐことは十分あり得るのです。
1-3. 愛情表現は“日々変動する”もの
最新の研究では、思春期前後の子どもたちが「親から愛されていると感じる度合い」は、固定的なものではなく、親の態度や関わりの中で日々変動することがわかっています(Tan et al., 2023)。
つまり、「昨日は冷たかったけど、今日は甘えてきた」といった“ゆらぎ”こそが、今の時期の自然な親子関係とも言えるのです。
2. 「それって反抗?」—言い返す、指示に従わないときの捉え方
「言い返してくるようになった」「親の言うことを聞かない」——そんな変化に、驚きや戸惑いを感じる保護者も多いでしょう。
この時期は、いわゆる「反抗期」として扱われがちですが、単純な“反抗”ではなく、「自分の考えを持ち始めた証」として理解することが大切です。
2-1. 自分の意見を主張する練習期
中学年〜高学年になると、子どもは周囲との比較や社会的な視点を獲得しはじめ、「こうしたい」「それは違う」といった自分の意思を表現し始めます。
このような言動は、自立に向かう大切なステップ。
一方で、言葉の選び方や衝動のコントロールが未熟なため、「つい強い言葉で返す」「理屈っぽく言い返す」ことが、親には“反抗”的に見えてしまいます。
子どもの主張に対して、頭ごなしに否定せず「どうしてそう思ったの?」と尋ねることで、対話の土台が築かれます。
2-2. 境界線を確かめる行動としての“反発”
また、子どもはこの時期、親との間にある「境界線(ボーダー)」を探ろうとします。
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どこまで言ったら怒られるか?
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どの程度まで自分の意見が通るのか?
こうした“試し”の行動は、子どもにとって「自分と他者の違い」を学ぶ重要な経験です。
ルールや約束を決めるときは、一方的に押しつけるのではなく、子どもの意見を聞きながら「すり合わせる」プロセスが効果的です。
2-3. 発達特性のある子の「反抗らしさ」
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ADHD傾向のある子は、衝動性や感情の起伏が強いため、「我慢できずに言い返す」ことが多く見られます。
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ASD傾向のある子では、「言葉どおりに受け取りすぎて反発する」「言い方がぶっきらぼう」など、意図と異なる形で誤解されやすい反応もあります。
こうした子どもの背景にある特性を理解することで、「反抗」ではなく「特性に基づいた表現」として受け止める視点が育まれます。
3. 「何考えてるか分からない」—表情や感情表現の変化への対応
「なんか無表情になってきた」「前より感情を出さない気がする」——そんなふうに、子どもの表情や反応の“読みづらさ”に戸惑う保護者も少なくありません。
この時期は、子どもが感情を“隠す”ことを覚え始める時期です。特に人前や家庭内で「大げさに見える」「恥ずかしい」と思う気持ちから、意図的に表情をコントロールしようとする姿勢が見られます。
3-1. 感情表現の“省略”は成長の一歩
この時期の子どもは、周囲の目を意識し始めます。「笑うと変だと思われるかも」「泣いたら恥ずかしい」といった気持ちが芽生え、感情をそのまま出すことが減っていくのです。これは、青年期に特徴的な『想像の観衆』という自己中心性の一側面であり、他者が自分の外見や行動を常に観察・評価していると感じるようになるためと指摘されています(参考:森岡正芳, 1981『青年期における自己認知の発達 自己中心性との関連性』京都大学教育学部紀要, XXVII, 182-193)。
発達神経科学では、思春期初期の脳は「大脳辺縁系(感情や衝動のアクセル)」の発達が先行し、「前頭前野(理性・抑制のブレーキ)」の成熟が遅れるという“不均衡モデル(Imbalance Model)”または“デュアルシステムモデル(Dual Systems Model)”が提唱されています。(Steinberg, L. (2010))
つまり、それまでは感じたことを素直に表現していた子どもが、「これを出しても大丈夫かな?」と一度立ち止まって考えるようになる——そんな変化の始まりです。
3-2. 「見えない感情」を言葉で確認する習慣を
子どもが表情で示さないときには、「今日はどんな気持ちだった?」と優しく尋ねる習慣を持つことが、親子関係の安定に役立ちます。
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「あまり顔に出ないけど、嬉しかった?」
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「怒ってたのかな、それとも困ってたのかな?」
といったふうに、感情のラベルを仮置きしながら聞くと、子ども自身も気持ちを整理しやすくなります。
感情理解や自己認識は、まさにこの時期から伸びていく力です。「読み取る」だけでなく、「確認する」親子コミュニケーションを日常に取り入れていきましょう。
4. 「心ここにあらず?」—話しかけても反応が薄いときの関わり方
「最近、話しかけても上の空で返事がない」「会話してもそっけなくて…」と感じることはありませんか?
こうした“心ここにあらず”のような反応は、単にやる気のなさや無関心ではなく、思考の優先順位が変化していることが背景にある場合もあります。
4-1. 内面の世界が豊かになってきた証拠
この時期の子どもは、「今、目の前にあるもの」よりも、「頭の中で考えていること」の比重が大きくなる傾向があります。
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「さっきの友達とのやりとりが気になる」
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「授業中に言われたことが引っかかっている」
といったように、外界の刺激よりも、自分の感情や思考の整理にエネルギーを使うことが増えるのです。
この状態で話しかけられても、すぐに切り替えができず、返事が遅れたり、反応が薄くなったりするのは、ある意味で自然なこととも言えます。
4-2. 発達特性のある子の場合
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ASD傾向のある子では、もともと注意の切り替えが難しいため、考えごとをしているときに話しかけられると「届かない」ように見えることがあります。
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ADHD傾向のある子では、逆に一瞬で注意が逸れてしまうため、話し始めた内容と違う話題で返してくることもあります。
これらは、意思の問題ではなく、脳の特性による「情報処理のスタイルの違い」です。まずはそれを理解し、反応が薄い=やる気がない、と決めつけないことが大切です。
4-3. 関わりのヒント:「待つ」「視線を合わせる」「関心を見つける"
ある研究では、思春期の子どもたちは「親から愛されていると感じた瞬間」を、“特別な出来事”ではなく、「さりげない日常の一コマ」から感じ取っていたと報告されています(Tan et al., 2023)。たとえば、「自分の話をちゃんと聞いてくれた」「目を見てうなずいてくれた」といった関わりが、子どもにとっては深い安心や信頼につながるのです。
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いったん声をかけたら、少し“待つ”余裕を持つ
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呼びかけるときは、目線や体の向きを合わせて「届きやすい形」に
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その子の“今興味のあること”を活用して話しかける(「ゲームの中でこんなときどうする?」など)
一方的に「ちゃんと聞いて!」と叱るよりも、「今どんなこと考えてたの?」と興味を向ける声かけが、親子の信頼関係を深めるきっかけになります。
表面的な反応に一喜一憂せず、その子の内面に目を向けるまなざしを持つことが、思春期に向かう親子関係の土台を築いていきます。
5. “思春期予備軍”としての親子関係づくり
小学校高学年は、身体の成長だけでなく、心の面でも「思春期の入り口」に差しかかる大切な時期です。子どもの内面の変化を前向きに捉え、これからの親子関係の土台を整えていくタイミングでもあります。
5-1. 「親を上書きしない」関わり方
高学年になると、子どもは親の意見や価値観を、そのまま鵜呑みにしなくなります。これは、否定でも反抗でもなく、自分の視点で物事を考え始めた証です。
このとき大切なのは、「親の考えが絶対」と押しつけるのではなく、子どもの思考や感じ方を一度受け止める姿勢です。
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「なるほど、そう思ったんだね」と一度受容してから伝える
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「それもアリだね。でも、こういう考え方もあるよ」と選択肢として提示する
こうした関わりは、子どもにとって「親は自分の考えを認めてくれる人」という安心感につながり、将来的な対話の土台となります。
5-2. 思春期に備えた“つながりの貯金”を
思春期に入ると、一時的に親子の距離が開くことがあります。そのときに支えとなるのが、それ以前に積み重ねた「信頼」と「安心」の記憶」です。
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忙しくても1日5分の会話を欠かさない
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子どもが話しかけてきたときには手を止めて目を向ける
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できるだけ「一緒に過ごしたポジティブな体験」を積む(例:ゲーム、料理、散歩など)
これらはすべて、“つながりの貯金”になります。
研究でも、思春期の親子関係の質は、小学校時代の関わり方に大きく影響されることが示されています(Laursen & Collins, 2009)
5-3. 保護者自身が“余裕を持てる”工夫を
子どもへの関わりを丁寧にしたくても、保護者自身が余裕をなくしてしまえば、それも難しくなります。
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「今日もちゃんと声をかけられた」「言いすぎたけど、謝れた」など、小さな成功を見つけて自分を肯定する
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他の保護者や専門家と話す機会を意識的に持つ(例:相談機関、カウンセリング、SNSの交流など)
親が自分自身をケアすることは、長期的な子育てにおける“持久力”**を保つうえでも欠かせない要素です。
高学年の親子関係は、まさに「思春期への架け橋」。今の関わりが、数年後の親子の信頼と対話にしっかりつながっていきます。
「今は難しいな」と感じるときこそ、“成長のしるし”として受け止め、焦らず・丁寧に向き合っていきましょう。
まとめ
高学年の親子関係は、まさに「思春期への架け橋」。今の関わりが、数年後の親子の信頼と対話にしっかりつながっていきます。
「今は難しいな」と感じるときこそ、“成長のしるし”として受け止めましょう。
焦らず・丁寧に、というと少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、たとえば「同じテレビ番組を見て笑う」「一緒にゲームをする」「なんとなく雑談する」など、何気ない会話や共通の話題を重ねていくことこそが、大きな意味を持ちます。
子どもの心は、まだまだ柔らかく、変化の途中。例えるなら「小さなカエル」ではなく、大きくなった“オタマジャクのような時期です。
いずれ迎える思春期に備えて、今できる関わりをひとつずつ重ねていきましょう。