心理発達コラム
親子関係がうまくいかないときに。年齢別に“ズレ”を見つめ直すヒント
「うちの子、ちゃんと話してくれない」「前はもっと仲良しだったのに」――
そんなふうに、日々の生活は大きな問題なく進んでいるのに、親子関係に“もやもや”を感じている方はいませんか?
この記事では、親子関係がうまくいかないと感じる背景や、年齢別の関わり方の違い、発達特性や不登校の影響、そして父親との関係まで含めて、丁寧にひもといていきます。
「子どもとちゃんと向き合いたい」と願うすべての保護者の方に、安心と気づきのヒントをお届けします。
1.親子関係が「うまくいかない」と感じるのはどんなとき?
2.年齢や発達段階で変わる“関わりやすさ”
3.発達特性がある子との親子関係で起きやすいこと
4.不登校家庭の親子関係、支え合いの難しさ
5.父親と子どもの関係、そこにある「距離」と「役割」
6.日常を見直す5つのヒント:仲がいい=いつも楽しい、ではない
7.「わかりたい」と思う気持ちが、関係の出発点になる
1. 親子関係が「うまくいかない」と感じるのはどんなとき?
親子の関係がこじれているわけではないけれど、なんとなく「うまくいっていない」と感じるとき。
それは、“話がかみ合わない” “気持ちが通じない”と感じる瞬間かもしれません。
たとえば、
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声をかけても反応がない、そっけない
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なにか言えばすぐに反発される
-
目の前でスマホばかり、話すタイミングがつかめない
こうした日常の中で、「前はもっと自然に話せていたのに」と違和感が強くなると、保護者自身も戸惑いや寂しさを感じやすくなります。
さらに、子ども自身が変化のなかにいるとき(成長・思春期・発達特性の影響など)、親の想いや関わり方がうまく届かないことも。
それが積み重なると、「もうどう接すればいいのかわからない」と悩んでしまうのです。
2. 年齢や発達段階で変わる“関わりやすさ”
子どもとの関係は、成長とともに自然に変わっていくものです。
幼い頃は一緒に過ごす時間が長く、生活も感情も共有しやすかったのに、年齢が上がるにつれて会話が減り、距離を感じることも増えていきます。
たとえば、
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小学校中学年〜高学年:少しずつ友達との関係が中心になり、自立心が芽生える
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思春期:親からの干渉を嫌がるようになり、気分の波も大きくなる
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高校生以降:親に「頼らなくてもいい」と思う一方で、不安定さも抱える
このような変化は、“自立への準備”として自然なプロセスですが、保護者にとっては「距離を置かれている」と感じることもあるでしょう。
また、幼児期〜小学校低学年でも、反抗や無視が見られる場合もあります。これはその子の個性や発達段階によるものかもしれません。
どの年齢であっても、「うまくいっていない気がする」と感じたときには、
“この子は今、どんな時期にいるのか”という視点で、関わり方を見直すことが大切です。
3. 発達特性がある子との親子関係で起きやすいこと
発達特性のある子どもと関わるとき、保護者が抱える悩みは多岐にわたります。
「何を考えているのかわからない」「愛情を注いでも伝わっていない気がする」――
そんな声が多く寄せられます。
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの特性をもつ子どもは、感じ方や反応の仕方が独特で、親子のやりとりが一方向になりやすい傾向があります。
たとえば、
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冗談を言っても伝わらず、かえって不機嫌になる
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「ありがとう」と言っても反応がなく、無視されたように感じる
-
好きなことには夢中になるのに、親との会話には無関心
こうした場面が繰り返されると、保護者は「愛情が通じない」「関係が成立していないのでは」と感じ、孤独や無力感を覚えやすくなります。
でもそれは、**親の愛情が届いていないのではなく、“届いたことが表に見えにくいだけ”**という場合が多いのです。
発達特性のある子どもは、感情の表現方法が一般的とは異なる場合があります。
うれしくてもそれを言葉で伝えられなかったり、嬉しさが行動ではなく“その場から立ち去る”という形で表れたりすることもあります。
また、感覚過敏やこだわりの強さから、保護者のスキンシップや声かけが刺激としてしんどくなることも。
「嫌われているのでは?」と感じたときこそ、その子の“感じ方”に目を向けることが大切です。
さらに、保護者自身も“普通の関わり方”が通じない中で、自分を責めてしまうことが多いのもこの関係の難しさです。
けれど、子どもは「この人は自分を理解しようとしてくれているかどうか」を、敏感に感じ取っています。
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すぐに気持ちが通じなくてもいい
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時間がかかってもいい
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方法を変えながら、何度でも関わろうとしてくれている
そんな姿勢こそが、信頼関係を築くための一歩になります。
4. 不登校家庭の親子関係、支え合いの難しさ
不登校は、子どもにとってだけでなく、保護者にとっても大きなストレスになります。
最初は「少し休めば元気になるかも」と思っていたのに、日が経つにつれて状況が変わらず、どう関わればいいのか分からなくなってしまうことも少なくありません。
「このままで大丈夫だろうか」
「将来が心配でたまらない」
「自分の育て方が悪かったのかも…」
そうした不安や自責の念が積み重なると、つい子どもに対して強く言ってしまったり、逆に声をかけられなくなったりして、親子の距離がさらに広がってしまうこともあります。
一方で、不登校の子ども自身も、行けない自分に対する罪悪感や無力感、焦りを抱えていることが多いのです。
そのため、親がどんな言葉をかけても、「責められている」と感じてしまうこともあります。
たとえば、
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元気そうに見えたから声をかけたのに、「うるさい」と怒鳴られる
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少し外出できたことを褒めたら、「放っておいて」と拒絶される
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見守っているつもりでも、「何もしてくれない」と言われる
そんなすれ違いのなかで、保護者も深く傷ついてしまうことがあるのです。
不登校の子どもは、ただ「学校に行きたくない」のではなく、「どうすれば自分らしくいられるか」「傷つかずに過ごせるか」と、毎日内面で葛藤を繰り返しています。
この状態では、親からの働きかけさえも“負担”になってしまうことがあります。
だからこそ大切なのは、「どうすれば学校に戻れるか」ではなく、「どうすれば安心できる家庭でいられるか」を軸にすることです。
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今日は朝起きられたね、と何気なく声をかける
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一緒にご飯を食べる時間を大切にする
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「この子のタイミングを待とう」と心を落ち着ける
これらはすぐに目に見える変化をもたらすものではありませんが、親が“味方でい続けてくれる”という実感が、子どもの安心感につながります。
そして、保護者自身が疲れ果ててしまわないためにも、「がんばりすぎない親」でいることもまた、子どもにとって必要な安心の一部なのです。
5. 父親と子どもの関係、そこにある「距離」と「役割」
親子関係というと、どうしても母親との関係に焦点が当たりやすくなりますが、父親との関係もまた、子どもの心に深く影響を与える大切な要素です。
特に最近では、父親の育児参加が増え、「父親としてもっと関わりたい」と思う人が増える一方で、
「どう関わればいいかわからない」「距離の取り方が難しい」と悩む声も少なくありません。
● “いるけれど関わらない”存在になりやすい
父親は、「一緒に生活しているのに、あまり会話がない」「必要な時だけ関わる」という、“いても遠い存在”になりやすいポジションです。
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叱るときだけ登場する
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子どもの学校や習い事のことは母親に任せている
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「仕事で忙しいから」と距離を取ってしまう
こうした関わり方は、知らず知らずのうちに**“怖い人”や“わかってくれない人”というイメージを子どもに植えつけてしまう**ことがあります。
● 父親のひとことが、子どもにとって大きな意味をもつ
逆に、父親がふとしたタイミングでかけるひとことや行動は、子どもにとって強く印象に残ります。
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朝起きてきた子に「おはよう」と声をかける
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宿題に向かっている姿を見て「がんばってるね」とひと声かける
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忙しい中でも、一緒にコンビニまで歩く時間をつくる
これらの何気ない関わりが、子どもの中で**「自分をちゃんと見てくれている人」としての父親像**をつくっていきます。
特に思春期や不登校の子どもは、言葉にこそ出さなくても、“父親にどう見られているか”をとても気にしています。
「なにも言ってこない=興味がない」と感じてしまうこともあるため、無言の距離を放置しないことが大切です。
● 父親らしさを「正しさ」で押し付けない
「父親として、ちゃんと育てなければ」「厳しさも必要だ」と思う気持ちは、決して間違っていません。
けれど、子どもとの関係が不安定なときに“正しさ”で押し切ろうとすると、むしろ心を閉ざさせてしまう可能性があります。
父親にとっても、関わり方に正解はありません。
大切なのは、「関わろうとしていること」が子どもに伝わること。
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会話が続かなくても、隣に座ってみる
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一緒にご飯を食べる時間をつくる
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母親との関係で困っていることがあれば、自分から学んでみる
そんな姿勢が、「この人は、自分を大切に思ってくれている」と感じるきっかけになります。
● “小さな関わり”が信頼のはじまり
父親との関係は、子どもの自己肯定感や社会性に影響すると言われています。
だからこそ、「どうせ自分は必要とされていない」とあきらめず、“小さな関わり”から一歩を踏み出すことが、親子の信頼を育てる第一歩になります。
6. 日常を見直す5つのヒント:仲がいい=いつも楽しい、ではない
親子関係を見直すとき、「何か特別なことをしなければ」と思ってしまいがちです。
でも、仲がいい関係というのは、いつも笑っているとか、イベントが多いということではありません。
たとえば、
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一緒にご飯を作る、好きなものを作ってあげる
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なんとなくテレビを一緒に観る
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一言二言だけでも日常の会話がある
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「今日は疲れてる?」と声をかける
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子どもの好きな話題に耳を傾ける
こうした**“地味で当たり前”な時間の共有が、親子の関係を支える土台**になります。
ときには、「せっかくの休みだから」と無理に出かけるよりも、
一緒にぼーっとする時間、家の中で自然に過ごす時間が、心の距離を近づけてくれることもあります。
また、親として「がんばりすぎない」ことも大切です。
子どもの変化ばかりに目を向けるのではなく、自分自身の気持ちや余裕にも目を向けてあげてください。
親子関係を見直すときの5つのヒントは、以下の通りです。
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関係のよさは“イベント”ではなく“日常”に宿る
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言葉よりも、“そばにいる”が伝えることもある
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叱る・教えるより、まず“聴く”こと
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「うまくいっていない」と感じたら、自分の心も整える
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“いまのこの子”を見て、「わかりたい」と思うことから始める
7. 「わかりたい」と思う気持ちが、関係の出発点になる
「どうしてこんな態度をとるの?」「もっと私の気持ちをわかってほしい」
親であれば、そう思ってしまうことがあるのは当然です。
でも、子どももまた、自分でもうまく気持ちを整理できていないことがあるのです。
年齢や発達段階によっては、感情を言葉にできない、伝えるタイミングが分からないということも多くあります。
親が「わかってほしい」と思うときこそ、まずは**「わかりたい」と思う気持ちが大切**です。
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なぜ今、こういう言い方をしたのかな?
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今日は学校で何かあったのかな?
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本当は、何を伝えたいんだろう?
こうした問いを心の中に置くことで、子どもへのまなざしが少しずつ変わっていきます。
社会の目や育児書の“正解”にとらわれすぎず、
**「うちの子は、いまどうしているか」**を見つめていく姿勢が、親子関係の出発点になります。
子どもは、自分を理解しようとする親の姿勢に、時間をかけて少しずつ心を開いていきます。
うまくいかない時期があっても、関係がすぐに修復されなくても、
「この人はわかろうとしてくれている」と感じられれば、親子の間にあたたかな信頼の芽が育っていくのです。